自転車日本一周記
4月20日 第五日目 安房(長野)―158号→飛騨高山(岐阜)

 去年の因縁がある、安房トンネルへ。
ここは、この旅をするためのテストランとして、以前東京から金沢を目指して行った時に挫折した場所だ。
峠への道を聞いた時に、警察の方に装備を見せるように言われた。
そして、その装備では凍死するから無理だと言われてしまったのだ。
父親がフリーマーケットで買ってきた500円の寝袋の限界を感じた。
その後、なんでか新潟に向かったりして帰ってきたのだが、今度はとっとと突破する。
でも寒さは怖い。はやく暖かくならないかな。
 道は狭く、坂はきつい。けっこうきつい峠だ。

予定よりもずいぶんかかる長い道を、のんびりのんびり昇っていく。
天気は悪くない。何とかあと少しでトンネル、というところで道路警備の方に呼び止められた。

「どこいくのー?」

「とりあえず、トンネルを越える予定です。」

「この先のトンネル、チャリは通行禁止だよ。」

「は・・・はい!?」

 3時間くらいかけてここまでたどり着いたのに、それはない。
とりあえず、あと数百メートルのトンネルまで行ってみることにする。
さっき道を尋ねたのだが、そのおじいさんは、「夏になると君みたいなチャリに乗った人が通る」と言っていた。
つまりは、突破できるルートがあるはず。
人道か、トンネル以外の旧道が必ずあるはずなのだ。

目の前の大きなカーブを回って、すぐそこがトンネルだった。
まず、旧道。あるにはあるが、雪のために完全閉鎖。
無理矢理フェンスを突破しても、雪の積もる山道を僕のランドナーでは突破できないだろう。
 そして、本命。トンネル。
見える限りでは人道も無く、白線も30cmくらいの幅しかないように見えた。
そこを走れば撥ねられること、必至だ。
 あきらめきれず、とりあえず徒歩でもう少し近づくことにする。
人道は必ずあるはずだからだ。最悪、ヒッチハイクで通過すればいい。
 ヒッチは性格的に怖いのでできれば避けたい。

 道は、あった。先ほどは見えなかった場所に、人道がある。
狭いが、通れなくはない。

 周りを見渡し、チャリを人道にのせ、トンネルへ。
かなり狭く、バッグや、手がコンクリの壁に擦る。反射板が飛び出ていて、けっこうそれもひっかかる。

 いらいらしながらも行くしかないのだ。
車が高速で走り抜ける横を、低速でのろのろ進む。

 どうやら出口は見えてきた。が、料金所がある。
料金はかまわないが、帰れと言われたらどうしよう。
割と絶望しかけたが、人道ルートは小さい階段こそあるものの、そこを通らなくてもいいらしい。

何にせよ、安房峠制覇だ。これで岐阜入り。

出口のそばの休憩所でコーラを買う。糖分を補給するためだ。
でも僕は炭酸があまり好きじゃない。シャカシャカ振ってはふたを開け、炭酸を逃がす。
 そんなことをしていたら、バイクにのった同年代の方に話しかけられた。
彼は、群馬の大学に通っているイトカワさん(仮名)。
 とりたて中型免許と買いたてのバイクでツーリングにきたらしい。
野宿旅とかに興味があるらしく、彼と話していたら、いつのまにか僕の目的地が彼のツーリングのゴールらしい、
飛騨高山になっていた。まぁ予定もないし別にいいか。
 携帯電話のアドレスを交換。現地での再会を約束する。
ここから先の道は気持ちよかった。
 のんびりと、いままでの足をほぐすように。たまったストレスを解放するみたいにスピードを出して峠を下った。
 
 無事に下り終え、途中にあったよくわからない水族館へ行ってみた。
「森の水族館」というらしい。
トトロの電話機や、幻の淡水魚イトウが展示されていた
なぜかチョウザメもいる。
しかし僕がここで撮ったのはその水族館にいた犬である。

僕はレポをするための写真を撮るのが嫌いというか面倒で、そのためこの旅行では説明用の写真はあまり撮らなかった。
日記もサボり気味にしかつけていないし、地図も日本地図だけだから、ルートもいきあたりばったりだ。

高山に到着。駅のそばでイトカワさんと合流。
泊まる場所を探すが、見つからない。彼は野宿したそうだったが、最近の寒さを考えるとよした方が良さそうだ。
僕一人なら野宿もできるが。
結局僕がみつけた漫画喫茶で一泊することに。
ナイトパックという安く泊まれるサービスが利用できる時間帯まで、
イトカワさんとゲームセンターにいった。僕はうるさいし人が多いからゲーセンは嫌いだが、彼はゲームが得意らしく、すこしうれしそうだ。



4月21日 第六日目 飛騨高山(岐阜)―41号→富山

早朝、5時。
一晩を椅子で寝て過ごした僕らは硬い体を伸ばして、出発した。
彼は自宅へ。僕は、先へ。
 分かれるとき、彼は僕に飛騨のお守りの人形をくれた。

「え。あ。ごめん。僕も何か・・・」
「いや、いいんですよ。無事を祈って」
「すみません・・・」
いや、違うだろう。
「ありがとう、ございます」

お守りをサドルにつけて、僕は彼と別れた。
正直言うと、僕は彼が少し苦手だった。
だけど、僕が愛想笑いをしている一方で、彼は僕のことを考えていてくれたのだ。
 束縛されて少し面倒だな、なんて僕は思っていたのにだ。


 ____漫画喫茶では4時間くらいしか寝ていないから、眠い。
最近少し無茶をしすぎているか。
それでもなかなかのペースで飛ばし、お昼頃には神岡についた。
ここは神岡鉱山という鉱山があって、廃墟好きにはかなりの有名スポットだ。


未だに現役施設がある。スルーして、廃墟を探す。
が、みつからない。

 うら寂しい町を出てすぐの温泉「割石の湯」に入る。
はぁー。沁みる。野宿旅をしていると、そうそう毎日お風呂には入れない。
 幸せをかみしめながらお風呂に入る。
しかもここは、外に面した窓一面に、桜が咲いているのがみえる。
最高だ。福祉施設らしく、おじいさんばかりで静かで良い。

 上がったら、飛騨牛乳のコーヒー牛乳。

そこで鉱山の情報収集をするが、すぐそこ、町に戻る途中にあるらしい。
が、出発してすぐ見つからないまま、僕は町に戻ってきてしまっていた。

まてよ。もしかして。
故意に間違えた質問を鉱山近くの関係者にしてみる。
廃墟目当てだと思われて警戒されたくないし、情報を引き出しやすくするためだ。

「あのー。栃洞地区の神岡城ってどこでしょうか」
「栃洞はこのうえ。神岡城は向こうだよ。」

・ ・・やはりか。どうやら廃墟は現役鉱山内にあるらしい。
おとなしくあきらめることにした。
小物の廃墟は実はいくつか途中でもみつけてのぞいたものの、
被写体としては惹かれるものはなかった。これから先に期待しよう。

 それでは、富山に向かおうか。

夕方、日も暮れる頃、富山に無事到着。
駅近くの公園に泊まる。
 
 夕ご飯はうどん2玉(80円)とハヤシルー。ハヤシルーのレトルトをあたためたお湯でコンソメスープ。うむ。美味。


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