自転車日本一周記
4月22日 第7日目  富山―359号→金沢(石川県)

富山県立美術館はなかなかすてき。ルオー「ユビュ親父の再生」の各々のキャラクター強さに惹かれる。説明に、ルオーは十代の頃、ステンドグラス職人の見習いになった。この工芸では、「仕切り」が硝子の間に必要となる。
ここから彼の絵の太い輪郭は生まれたらしい。アンドレ・ドランやエルンストもあってうれしい。
クレーの「レール上のパレード」はお気に入りだ。作品は気に入った訳ではないけれど、マン・レイもあった。

富山大学の学食にいったけれど、おやすみ。
雨の中いったのに、がっくりする。僕の所属するサークル、学食研究会員として、全ての国立大をついでに制覇しようと思っていたが、甘過ぎだった。休みを抜きにしても、国立大学の学食は独自のものではなく、殆どが生協なのでメニューは同じ。やる気がでない。
 もともとキャンパス巡りが楽しかったからだが、あっさりとその情熱は消えた。
全国学食制覇、挫折。

 359号を進む。距離的には40kmくらいしかないのでのんびり進んだら、


結局金沢到着は夕方になってしまった。

先客の猫さんがいらしたが、休憩所のようなところで休むこととする。
久しぶりに、のんびりと就寝。

4月23日 第8日目 金沢(石川県)

 カリカリカリカリ・・・

変な音がテントの入り口からする。AM3:30

入り口を開けると、猫がいた。テントの入り口をひっかいていたらしい。
すっかり眠気が覚めてしまった。

しかし、昨日「ももの湯」という銭湯に入ったからか体調は悪くない。
このももの湯、昭和31年創業、桶は黄色いケロリン、小さな浴槽ふたつだけの良い雰囲気の場所。
雨に打たれながら連日走る体にはありがたい。
 大学に帰ったら、 「銭湯研究会」なるものをつくろうかと考えた。
古き良き銭湯のある町をお散歩し、みんなで銭湯に入って帰るのだ。
 入会者には僕から赤い手ぬぐいが提供される。

 今日は月曜日で、美術館はお休み。だからのんびりと過ごす。
再々チャレンジの炊飯。今までシンが残ってしまったので、今度は大量の水を入れてみた。
失敗しても、最悪おかゆですむからだ。



かなり吹きこぼれた上、予定より20分も早いが焦げる香りがしたため火からおろし、蒸らす。
 その間にお味噌汁をつくり、昨日買った、75円のサバの照り焼きを焼く。
サバを焼こうとすると、パックが破られ、一部猫に食べられていた。
ニャンコ野郎・・・!!


 このサバがとてもおいしい。我慢できず味見したが、フライパンの上でじゅわじゅわ音を立てて焼けている。油がのっていて最高。

 さて、問題はご飯だ。開ける。

____炊けている。
ちょっと水っぽいが焦げ付きもほぼゼロで完璧だ。
うまいうまいと思いながら食べる。幸せだ。
米の一粒血の一滴。一粒残らず食べた。
やっと炊飯がうまくいった。


うれしくて妹に朝ご飯のメールを送る。生存報告を兼ねているのだ。
返信。
Title:Re
〜本日の優雅な朝食〜
・ コーンスープ
・ ベーコンエッグ
・ クロワッサン
・ ティー

ティーのところでイラっとした。

ご飯を食べ終わってのんびりしていると話しかけてきたおばさんが大量の食料をくれる。
僕と話した後、わざわざスクーターで届けに来てくれたのだ。


ラーメン3袋、冷凍食品×3(レンジは無い。)、生肉、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、
カレー、カップ麺、紅茶、ふりかけetc。
これは本当にありがたい。気持ちだけでなく、財布的にも。
おばさん本当にありがとう。選び方にもよくわからないなりに気遣いを感じる
ひとつひとつ僕にくれたものの説明をしてくれた。
「・・・これがラーメン。好みわからないから、一種ずつ。で、これが若者にもおしゃれな・・・エクプレコ?」
新種の熱帯魚?
インスタント珈琲でした。


近場のスーパーのレンジで冷凍食品を解凍、
お弁当総菜用のきんぴらごほうを食べてから金沢大学へ。
学食制覇の野望は早くも潰えたが、今日は暇なので行くことにした。

ダラダラと続く坂の上にあるが、建物はかっこいい。




937カレーという、北陸、関西からアンケートをとって作られたというカレーを食べる。
うん普通。


図書館で昼寝。


あと兼六園もついでにいった。確か。記憶があまり無い。


今度は金沢蓄音機館へ。
蓄音機がいっぱい展示されていて、こういうところは大好きだ。
 蓄音機の針にもいろいろ種類があって、宝石針や、バラのトゲでつくった針もあるらしい。
ロマンティックだ。
 発明家のエジソンは、記録方法や、宝石針にこだわったため、ベルリナーに商売的には負けてしまう。
ベルリナーは円筒状の蓄音機を発明したひとらしい。
 レボルバータイプのオルゴールとかから着想を得たのかなぁ。
発売当初はロウでドラムができており、声を吹き込んで相手に送り、
相手はそのロウを溶かしてもう一度吹き込んで送ったりしたらしい。いいなぁ。
これで彼女と声をやりとりできたりしたらすてきだろうな。
 16時から、蓄音機の聴き比べが行われる。
僕一人だったけど。

 案内の女性がやってきた。
「あの、私今回がデビューなんです。」
そういって、右手にカンペを持ってたどたどしく始めた。

ガチャン・・・ガっ・・・ド・・・

あれ?とかおかしいとか不穏な声と音を立てながらセッティング、曲をかけていく。
古い順に聴いていったが、新しくなるごとに確かに音が安定していく。
途中、針をガツン!と落とし、「やっちゃった・・・」とかいいながらも何とか進む。
みているこちらが不安になる。
だ、大丈夫かな・・・。
「えっと、このドラムに痕を刻んで記録していくんですけど、わかりますか?」
「リボルバータイプ・・・というか、オルゴールの爪の逆みたいなものですか。」

「は・・・?はい。えっと、この機種はビクター社の?かな?あれ?」
「おそらくはニッポノホン製です。」
「え!?あぁ・・・お詳しいんですね」
さっきみた。
たまたま知っていただけなのに、彼女のリズムを狂わせてしまったか心配した。
ただ、二人だけだからか、なんだか和やかな空気だった。

音楽がかかる。眼を閉じて聴き入る。
音が生まれるたびに失われていくことをなんとなく意識した。
「こういった曲はお聴きになられたことはありますか?」
「Yes,sir.that's my baby」
「え・・・あ、はい。」
懐かしいなぁ。「題名のない音楽会」でジョン・ピザレリが歌ったことを思い出す。
"ring a ding-ding"が最高だった。いい表情で演奏する人で大好きだ。
Live at birdland,Dear Mr.Coleが好き。
いつか生でみたいものだ。
"ike a toy on a strin
g And your heart goes: "Ring-a-ding ding, ring-a-ding ding, ring-a-ding ding"♪

ぼけっと想いだしているうちに演奏会は終わり、
彼女と少し談笑した。
「おつかれさまです。」
「最初のお客様があなたで良かったです」
そう、言ってくれた。
これはとても、うれしかった。


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