自転車日本一周記
5月2日 第17日  兵庫県―(9号)→鳥取県

 今日も豪雨。それどころか、暴風も加わった。
自転車ごと横なぎにされそうな風。待機することにした。
 ブレーキワイヤを調整、すり減った前輪のブレーキシューを交換。
これも初めての経験だ。僕は本当に、チェーンの取り外しくらいしか知らないで旅に出たのだ。
しかし昨日と今日で少し自信がついた。後はチェーン交換、ワイヤ交換ができれば基本的には怖いものはなくなる。
ドライバーと、レンチ2種が欲しい。エアゲイジは要らないかな。
 バッグの中まで浸水。ガソリンストーブ(コンロ)がつかなくなる。
浸水対策をしっかりしないといけない。めんどくさいからしないかもしれないけど。
 当面の対策としては祈りを採用することにした。
雨降りませんように。あと、眩しいのも嫌いだから晴れもしませんように。



 ブレーキ修理を終え、峠を越えるとすぐ鳥取だった。
このころには雨も止み、晴れた。


 早速砂丘へ。予想よりもずっと広く、大きかった。
だけどゴールデンウィークで人がいっぱいいてなえる。
のんびりぶらぶら歩く。
観光客は入り口からほど近い、砂山に登って、降りて、帰って行く。
ほぼ全員がそうなのだ。何となく、動物園の檻の中の動物を想像する。
ねぇ。と、近くで突っ立っているラクダに話す。

 売店で買ったチョコモナカを食べながら歩く。砂丘とチョコモナカは実にあう。




ハリセンボンの死骸、まつぼっくり、片方のサンダル。
クワガタの頭。そんなものを撮りながら。2〜3時間、誰もいない砂丘をふらついた。






 夕食ではストーブになかなか火がつかず、眠っても
若者たちが深夜3:00ごろから朝5:30まで公園でバイクで遊んでいてよく眠れなかった。


5月3日 第18日目 鳥取のどこか―(9号)→安芸(島根県)
 植田正治写真美術館。
館が開く前についたので、近くの農業用の貯水池っぽいところで泳いで暇つぶし。
明らかにやばそうな気配があったが、汗をかいていてなんとなく泳ぎたかったので。
 生物が1匹もいない、薄暗い枝が積み重なる水の底、その先の黒い綿みたいによどむ闇もなかなか好きだ。未知の生物とががいそうで。
 あと、くわがたみつけた。



ぼけっとくわがたをみながらご飯を食べる。ナイフで生のたまねぎを適当に切って、
食パンに挟んで塩を振って食べてみた。恐ろしくまずい。

 道の途中で、カフェの店員さんの女の子2人が「せーのっ・・・がんばってー!」と言ってくれた。そのカフェを通り過ぎたところで言われたけど、振り返るのが恥ずかしいので自転車をこぎながら、手だけあげた。

 美術館では、植田正治の構図にうなっていたら、「ズームに頼り、構成に気をとられ、主題を逃してはいないか」という一文があった。へこまされ、もういちど作品を見直した。
 僕は配置というか、絵画的な構図、構成を好む傾向がある。雨の音であったり、触感であったり、写っていないものを写したいものだと思う。俳句的な写真とでもいうのだろうか。
フレームっていうのは、切り取るためのものじゃなく、美しい世界への窓だと思う。断じて額ではない。その、外側の美しさにも思いを馳せさせてくれるものであって欲しい。
 写真集を2冊購入。意図的に記号っぽくされたモチーフが何を語っているのか僕にはわからないが。
こういった「本物」に触れずとも、僕は生きていける。生ぬるい、自分の写真とかを身内に褒められて、自分を一時的にでも慰められればいいのだ。ふと、寂しくなったらインスタントな友情や愛情があれば埋め合わせることができる。そしてそれはおそらく一生続く。僕のように、生ぬるい性格の人間は、一生ごまかし続け、そしてそのまま死ぬのだろう。
そのことに気づいてしまっているのに、なお闘える人間は、何が違うのだろうな。


 田舎の夜は濃い。僕の地元もかなり田舎だが、街灯はけっこうある。けどマニアックな県道は真っ暗だ。
ちょっと脇道に入ったところの神社で眠る。
 真っ暗で、怖いから、道の駅とか人のいるところで眠るという人が多いけど、僕はこういうところの方が好きだ。
どう考えても人の方が怖いし、他人のいるところでは僕はしっかりと眠れない。



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